大阪地方裁判所 昭和42年(ワ)1502号 判決 1968年10月31日
原告
大藪二三夫
ほか一名
被告
和田春生
ほか一名
主文
一、被告らは各自、原告大藪二三夫に対し金二、一〇九、八二六円およびこれに対する昭和四三年四月二三日から支払ずみ迄年五分の割合による金員を支払え。
二、原告大藪二三夫のその余の請求および原告大藪悦子の請求を棄却する。
三、訴訟費用は原告大藪二三夫と被告らとの間に生じた分は二分しその一を原告大藪二三夫の、その余を被告らの各負担とし、原告大藪悦子と被告らの間に生じた分は原告大藪悦子の負担とする。
四、この判決第一項は仮りに執行することができる。
五、但し、被告らにおいて共同して原告大藪二三夫に対し金一、六〇〇、〇〇〇円の担保を供するときは、右各仮執行を免れることができる。
事実
第一、申立
(一) 被告らは各自、
(1) 原告大藪二三夫に対し金六、五三〇、一八〇円およびこれに対する昭和四三年四月二三日から支払ずみ迄年五分の割合による金員を、
(2) 原告大藪悦子に対し金三〇〇、〇〇〇円およびこれに対する被告和田春生は昭和四二年四月六日から、被告吹田交通有限会社は同月七日から各支払ずみ迄年五分の割合による金員を
各支払え。
(二) 訴訟費用は被告らの負担とする。
との判決ならびに仮執行の宣言。
第二、請求の原因
一、本件交通事故発生
とき 昭和四一年三月一九日午前零時五分頃
ところ 吹田市大字小路三八二番地先国道一七一号線上
事故車 普通乗用自動車(大五か五九四号)
右運転者 被告和田春生
受傷者 原告大藪二三夫
態様 南進していた原告大藪二三夫運転の小型貨物自動車(以下原告車という)に後続南進してきた事故車が追突した。
二、被告らの責任原因
被告らは各自、左の理由により原告らに対し後記の損害を賠償すべき義務がある。
(一) 被告吹田交通有限会社(以下被告吹田交通という)
根拠 自賠法三条民法七一五条一項
該当事実 左のとおり。
被告吹田交通は事故車を所有し被告和田を雇傭して営業をなし、本件事故当時被告和田は被告吹田交通の業務執行のため事故車を運行していたところ、被告和田には左記(二)の如き事故車運行の過失があつた。
(二) 被告和田
根拠 民法七〇九条
該当事実 左のとおり。
南進してきた原告車は本件現場において左折(原告車の進行方向に向つて、以下同じ)すべく左折の合図をし、左折しつつあつたのであるが、被告和田は事故車を時速約五〇粁で運転して原告車に後続してきたのであるから、原告車に追突するのを避けることができるため必要な距離を保つとともに前方を注視し減速して進行しなければならないにも拘らず、漫然と原告車の後方約二米に近接して前方注視を怠り前記速度のまま進行した過失があつた。
三、損害の発生
(一) 原告二三夫の受傷
(1) 傷害の内容および治療
頭部外傷Ⅱ型および鞭打ち損傷の傷害を受け、事故後現在迄引き続き治療を受けている。
(2) 後遺症
鞭打ち症、そのため常時後頭部から肩にかけてしびれ感がある。左大後頭神経痛、頸髄損傷、右眼中心性網膜炎、言語障害。
(二) 療養関係費
原告二三夫は前記傷害の治療のため左の如き費用を支払つた。
(1) 北野病院治療費 一五、〇三六円
(2) 吹田病院眼科治療費 一一四、八六一円
(3) 吹田病院外科治療費 一三〇、二八三円
(三) 逸失利益
原告二三夫は本件事故のため左のとおり得べかりし利益を失つた。
右算定の根拠は次のとおり。
(1) 職業
生菓子製造および卸販売業
(2) 収入(売上高)
一ケ月平均三〇九、七七一円
(3) 経費
一ケ月平均二〇〇、〇〇〇円
(4) 純収益
一ケ月平均一〇九、七七一円
(5) 就労可能年数
事故時の年令 四二才
原告二三夫はその余命の範囲内で事故後なお一八年間は、就労可能。
(6) 労働能力、収入の減少ないし喪失。
前記傷害および後遺症のため強度の疲労感が生じて一日約二時間以上の労働はできず、昭和四一年四月中頃から生菓子製造および卸売業を休業している。従つて原告二三夫はその従前の労働能力の五〇パーセント程度を失い、少くとも一ケ月五〇、〇〇〇円宛の減収を生ずるものと予想される。
(7) 逸失利益額
原告二三夫の前記就労可能期間中の逸失利益の事故時における現価は七、五六〇、〇〇〇円(ホフマン式算定法により年五分の中間利息を控除、年毎年金現価率による)。
(算式) (年間減収額) (ホフマン係数)
六〇〇、〇〇〇×一二・六=七、五六〇、〇〇〇
(四) 精神的損害(慰謝料)
原告二三夫につき八〇〇、〇〇〇円、原告悦子につき三〇〇、〇〇〇円を相当とする。
右算定につき特記すべき事実は次のとおり。
(1) 原告二三夫は前記の如き傷害を受け、後遺症が残存し、長期間に亘る治療を要している。
(2) そのため同原告はその労働能力を大幅に失い、遂に昭和四一年四月末頃から従前の生菓子および卸販売業を休業するに至り、原告二三夫の妻原告悦子の経営する菓子小売店からのわずかな収入によりその生計を維持している。
(3) 原告悦子は原告二三夫の妻であり、原告二三夫の右の如き受傷ならびに後遺症、およびこれにより一家の生計の支柱を失つたと同然となつたことにより、多大の精神的打撃を受けた。
(五) 弁護士費用
原告二三夫は本訴代理人たる弁護士に対し二〇〇、〇〇〇円を支払つた。
四、損害填補
原告二三夫は自賠保険金七三〇、〇〇〇円の支払を受け、これを同原告の損害につきその額に応じ按分充当した。
五、本訴請求
以上により、被告ら各自に対し、原告二三夫は右三(二)と同(三)の内金六、〇〇〇、〇〇〇円と同(四)との合計から右四を控除した残額六、五三〇、一八〇円およびこれに対する損害発生後の昭和四三年四月二三日から支払ずみ迄年五分の割合による遅延損害金を、原告悦子は右三(四)の三〇〇、〇〇〇円およびこれに対する、被告らに対し本件訴状が送達された日の翌日である、被告和田は昭和四二年四月六日、被告吹田交通は昭和四二年四月七日から各支払ずみ迄年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
第三、被告らの答弁
請求原因一および四は認め、同二および三の事実は否認する。
第四、証拠 〔略〕
理由
一、請求原因一の事実(本件交通事故発生)は当事者間に争いがない。
二、被告らの責任原因
被告らは、各自、左の理由により原告二三夫の後記損害を賠償すべき義務がある。
(一) 被告吹田交通
根拠 自賠法三条
該当事実 左のとおり。
被告吹田交通は事故車を用い被告和田を雇傭してタクシー業を営んでいたところ、本件事故当時被告和田は業務執行のため事故車を運行していた。(〔証拠略〕)
(二) 被告和田
根拠 民法七〇九条
該当事実 左のとおり。
本件道路は南北に通じるアスフアルトにより舗装された直線道路で、中心線があり道路片側の幅員は約七・五米で、本件現場から幅員約八米の道路が東方に通じており、本件当時は小雨が降つていたため前方の見通しは十分でなかつた。
被告和田は時速約四五粁で事故車を運転し南進してきて本件現場の約一六・七米手前に差しかかつた時、前方約一〇米の地点に先行南進する原告車を発見したにも拘らず、漫然と原告車に対する注意を怠つて同車が東方に通じる道路へ左折するため徐行しているのに気付かず前記速度のまま進行した過失により事故車を原告車に追突させた。(〔証拠略〕)
三、損害の発生
(一) 原告二三夫の受傷
(1) 傷害の内容および治療
頭部外傷第Ⅱ型および鞭打ち損傷の傷害を受け、事故後現在迄引き続き治療を受けている。(〔証拠略〕)
(2) 後遺症
頭部外傷後遺症として、左大後頭神経痛(外傷性頸性頭痛症候群)兼頸髄損傷症候群が残存し、その症状として頭痛、眩暈、両上肢しびれ感、脱力感、運動性言語障害があり、および右陳旧性中心性網膜炎が残存しそのため右視力〇・九、視野検査において上五度、外三度、下三度、内四度に亘る比較中心暗点を残している。(〔証拠略〕)
(二) 療養関係費
原告二三夫は前記傷害の治療のため左の如き費用を支払つた。
(1) 北野病院治療費およびコルセツト代 一四、七五七円
(〔証拠略〕)
(2) 吹田病院眼科治療費 一一四、八六一円
(〔証拠略〕)
(3) 吹田病院外科治療費 一三〇、二八三円
(〔証拠略〕)
(三) 逸失利益
原告二三夫は本件事故のため左のとおり得べかりし利益を失つた。
右算定の根拠は次のとおり。
(1) 職業
生菓子製造および卸販売業(店員一人使用)(〔証拠略〕)
(2) 収入(売上高)
少くとも一ケ月平均三〇九、七七一円。(〔証拠略〕)
(3) 経費
多くとも一ケ月平均二〇九、七七一円を超えない。(〔証拠略〕)
(4) 純収益
右(2)と(3)の差額一ケ月平均一〇〇、〇〇〇円
(5) 就労可能年数
原告二三夫の事故時の年令四二才
同原告はその余命の範囲内で事故後なお一八年間は就労可能。(〔証拠略〕)
(6) 労働能力、収入の減少ないし喪失
(イ) 〔証拠略〕を併せ判断すると、原告二三夫は事故後約二〇日を経過した昭和四一年四月一〇日前示の如き頭部外傷後遺症の各症状が現われ、および右眼の視力が〇・〇三に低下し中心視野検査によれば内側九度、上方九度、外側一三度、下方八度に亘る比較中心暗点が検出される状態となつたためその後軽易な労働以外に就労することができなかつたが、右各症状は漸次軽快し、昭和四二年一二月ごろから自ら自動車を運転しており、現在では少量の飲酒も可能で、重量二〇瓩程度のものを持ち運ぶことができ、言語障害も著しいものではなく、右眼の視力および視界も前示三(一)(2)の程度に回復していることが認められる。
(ロ) そこで、右事実および前示原告二三夫の職業、年令等を併せ考えると、原告二三夫は昭和四一年四月一〇日から昭和四二年一二月九日まで二〇ケ月間は労働能力の五〇パーセントを喪失しそのため事故前の収入の五〇パーセントを失つたが、昭和四二年一二月一〇日から三年(三六ケ月)間は労働能力の八〇パーセントを回復し従つて収入の減少は事故前のそれの二〇パーセントにとどまり、事故後約四年九ケ月を経過する昭和四五年一二月一〇日以降は労働能力も回復し収入の減少も止むものと認めるのが相当である。
(7) 逸失利益額 合計一、五七九、九二五円
(イ) 原告二三夫の昭和四一年四月一〇日から昭和四二年一二月九日まで二〇ケ月間の逸失利益の右昭和四一年四月一〇日における現価は九五八、五九五円(ホフマン式算定法により年五分の中間利息控除、月毎年金現価率による。但し円未満切捨、以下同じ)
(算式) (一ケ月減収額) (ホフマン係数)
五〇、〇〇〇×一九・一七一九=九五八、五九五
(ロ) 原告二三夫の昭和四二年一二月一〇日から昭和四五年一二月九日まで三六ケ月間の逸失利益の昭和四一年四月一〇日における現価は六二一、三三〇円(算定法は右(イ)に同じ)。
(算式)
二〇、〇〇〇×(五〇・二三八四-一九・一七一九)=六二一、三三〇
(四) 精神的損害(慰謝料)
(1) 原告二三夫に対する慰謝料は八〇〇、〇〇〇円を下らないと認められる。
右算定につき特記すべき事実は次のとおり。
前記の如き傷害ならびに後遺症の部位、程度とその治療の経過、特に後遺症のため労働能力を長期間一部喪失した。
(2) 原告悦子の慰謝料に対する判断
〔証拠略〕によれば、原告悦子は原告二三夫の妻であることが認められるが、原告悦子が本件事故による前示の如き原告二三夫の受傷および後遺症により同原告が生命を害された場合にも比肩すべき、または右場合に比して著しく劣らない程度の精神的苦痛を受けた事実を認めるに足りる証拠はないので、原告悦子の慰謝料請求は理由がないものと言うべきである。
(五) 弁護士費用
原告二三夫はその主張の如き債務を負担したものと認められるところ、本件事案の内容、審理の経過、認容すべき前記の損害額に照らすと被告らに対し本件事故による損害として賠償を求め得べきものは、二〇〇、〇〇〇円と認めるのが相当である。
(証拠日本弁護士連合会および大阪弁護士会各報酬規定、弁論の全趣旨)
四、損害填補
原告二三夫が自賠保険金七三〇、〇〇〇円の支払を受け、これを同原告の損害につきその額に応じ按分充当したことは当事者間に争いがない。
五、結論
以上により、被告らは各自、原告二三夫に対し右三(二)(三)(四)(1)(五)の合計額から右四を控除した残額金二、一〇九、八二六円およびこれに対する本件損害発生の後である昭和四三年四月二三日から支払ずみ迄民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うべく、原告二三夫の本訴請求は右の限度で正当として認容し、原告二三夫のその余の請求および原告悦子の本訴請求を失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条、仮執行ならびに同免脱の宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 亀井左取 谷水央 大喜多啓光)